老人ホームのフロアーで、(席はどこ?)

入居者が、一日の大半を過ごすフロアーの食事の席ですが、決めるにはとても気を使います。


介護度、認知レベル、食事は自力で食べられるか否か、性格、生きてきた舞台。
AさんとBさんは仲良しだけど、隣にCさんが座ったら、どうなるだろうか‥?


90年も違う時間を生きてきた人たちが共に過ごす、フロアーでのささやかな時間。
上手くいっているところは変えたくない。でも、彼方を立てればこちらが立たずで‥、
パズルを解くように悩みます。

                                                    


思い出すのは、mineさんとyoukoさんのこと。


この二人、毎朝毎朝、食事前に喧嘩をするのです。
でも、席を離すと、二人ともぼんやりとして元気がなく、数日で、今まで出来ていたことが出来なくなってしまいます。
喧嘩をしても、仲良しの二人です。


朝早くに、youkoさんは伝い歩きで、mineさんは車椅子を自走して、フロアーに出てきて、席に着く二人ですが、
一日の始めの挨拶は、お互いを褒めることから始まります。


「私ねえ、初めてyoukoさんを見た時に、綺麗な人だなあと思ったの。」
「あなたこそ、賢い人だろうなあ、と、気にかかっていたのよ。」
と、歯が浮いたような誉め言葉。


しばらくすると、youkoさんは飽きてきて、お仕舞いにしたいと思います。でも、mineさんは気がつかず。
youkoさんは隙を狙っては手を伸ばし、mineさんのお茶を飲んでしまいます。


nineさんは怒る、youkoさんは知らん顔。
「あなた、これがいけないことだとわからないの?」


ここで、youkoさんの決めセリフ。
「分からないから、ここに入っているんです!」


mineさんは返す言葉を失って、なにも言えません。あたりはシ~ンとして‥、
一幕めの終了です。


少し時間が経つと、寂しくなったnineさんは、
「ねえ、一緒に歌でも歌わない?」と誘います。
「良いわよ」とyoukoさん。
そして二人で仲良く歌いながら、朝食を待っていました。


やがて、数年の時が経ち、
youkoさんは何度か入院をして、先に旅立ちました。


しばらくは元気でいたmineさんも、だんだんに、出来ないことの方が多くなりました。
「申し訳ないけど、これからはこちらでやりますね。」言うと、
「あ~あ、いつかはこんな日が来るとは思っていたよ、」と、諦めた様子で呟いた。


ある日、
「私は、もう、死んでいるのだから食べさせないで。」そう言って食事をとらず、数日後には、旅立って行きました。


「あれから、何人、あの席は人が変わったんだろう、」と、
時々、指を折っては数えます。


「ああ、あの席でねえ、
youkoさんとmineさんが、毎朝、喧嘩していたんだったわねえ、」
「傑作だったよねえ‥。」


「今頃、どうしているだろう‥、」とつい、呟いてしまう私に、スタッフはいつも、笑って、こう言います。


「同窓会でも、しているんじゃない?」


そうだと、いいね‥。


      

                     koujiさんの絵 (2018/04/15)





×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。