タロ、

南極探検隊の、タロ、ジロの物語、知っていますよね?

     

年がばれてしまうけれど‥、
私、タロウを撫ぜたことがありました。


女子高の一年生、秋の始め。
優勝したクラスだけが学園際に出られるという、クラス対抗の演劇で、演出担当になりました。劇はアイヌの少年の物語です。
友達と二人で、衣装の参考にと、北大植物園の民族資料館に出かけた時のことです。
     
資料館の隣の芝生を、ふと、みると、
柵の向こうに、大きな黒い犬が横たわっているのに気がついた。


「もしかしたら、タロ?」
柵には鍵もなく、
私たちは中に入って「タロウ?」と呼んでみた。
呼びかけると、振り向こうとします。


「タロウなのね、」
「本当にタロウよ。」
子供の頃から知っている、奇跡の犬。


「タロウ、タロウ、」と呼びながら、体を摩って、
「またね、」と資料館に入ったけれど、
出て来た時には、
もう暗く、タロウの姿は見えなかった。
       
劇は8クラス中、堂々の1位で学園祭に出演し、好評のうちに終了。
タロウを撫ぜた日のことも忘れてしまった翌年の夏、
ふと目にした新聞でタロウが亡くなったことを知りました。


「南極探検隊のタロウ、撫ぜたことがあるよ。」と息子に話したら、
「‥‥‥?、」


「ポプラ並木が続いていたとか、時計台で勉強したとか、タロウに触ったとか。
母さんは言うけれど‥、


俺が札幌に行った時は、ポプラ並木はまばら、
時計台は入館料払って中に入っただけ。
タロウは、剥製になっていた。
話聞いていると、いつの時代の人なんだ‥?と思ってしまうよ、」と。


いつも間にか、私も昔の人になってしまったようです。


思い出は、段々と、遠くに遠くに‥、
でも同時に、より近くに感じられるようにもなってくる。
歳をとるって、そういうことのようだけど、


それはそれで、悪くない。


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