老人ホームのフロアーで、「dandy.○○(その2)」

dandyのお話を続けます。
それは、ある年の暮れ、12月30日の早朝のことでした。


廊下を行ったり来たりしていたdandyに私は、
「dandy、おはよう。転ばないように気を付けてね。」と声を掛けて、慌ただしく、あちらこちらの部屋に入っては、一人、二人と起床介助を続けていました。


ふと、見ると、dandyは床に座っていました。
体育座りで、じいっと、不思議そうに、自分の手を眺めています。


「どうしたの、dandy、転んだの?」と近寄ってみて、もう、ビックリ!
指が、指が、指がぁ‥!
こともあろうに、ぶらりと折れて、しかも、裏返しになっていたんです。


(そ、そんな‥、)
「バイタル、バイタル!」と、とバタバタバタと廊下を走ります。 
                                         
血圧、脈拍、体温、酸素濃度。
どれも異常はありません。痛がる様子もなく、じっと、指をみているdandy。
(このままじゃやダメだわ、車椅子に乗せなくちゃ、)


ところで…、
立ち上がることの出来ない大柄な男性を、座った状態から、椅子に座らせるのは、女性一人では難しい。私は腰を何度も痛めてる‥。
(でも、やるしかないわ。)


「dandy、車椅子に乗るわよ、いい?」
掛け声をかけて、立ち上がらせて、気がついたら、dandyは車椅子の上でした。



エレベーターの開く音がしました。早番の看護師が5階に上がってきたようです。応急処置をしてもらわなきゃ、と、大慌てで連れて行くと、  
         
「これは、どうしょうもないね、救急車、呼ぶしかないよ。」とたった、一言。


(はあ~、coolだねえ‥、)


とにかく、と、
救急車を手配して、大急ぎで、あれやこれやと準備をします。生活記録、個人ファイル、保健所のコピー、携帯。
(事務所はまだ出勤していないから、帰りの交通費は立て替えね。お財布の残高は…、O.K。入院に備えて、シャツとデイパンツも必要よ。)


救急車は5分後には着きました。
「直ぐ、降りてきて下さい。」と言われて、dandyにコートを着せて、半袖の制服にエプロンのまま、救急車に乗り込んだ…。



救急隊員は矢継ぎ早に質問をしてきます。生年月日、身長、体重。その時の状況、既往症の有無。入院歴等々。アチコチ、書類を見ながらどうにか答えて、合い間に、dandyのご家族と、まだ出勤をしていなかった施設長に連絡をします。


「病院が決まったら、また、連絡します。」と伝えたけれど、そこからが長かった‥。


手術が必要だと判断した救急隊員が、次々と病院をあたります。でも、暮れの30日に、緊急の手術を受け付けてくれる病院は見つからず。


7時前から、救急車の中にいたのに、病院が決まったのは9時半を過ぎていた。しかも決まった病院は遠くって‥、
着いたのはもう、お昼前。


病院では検査で待たされて、更に1時間。検査室の前で、トイレを我慢して待って、お腹もペコペコ。暮れの30日に、半袖のポロシャツ一枚の私。
寒い、寒い。


結果を職場に連絡しなければならないから、と、しびれを切らして、検査室をノックしてみました。

「すみませんが‥、あの~、どうなったでしょうか‥。」


そうしたら、あっさり、
「脱臼でしたよ。」ですって。


(はあ~、?、?、)
一瞬で、力が抜けましたね。


「で、今、どこに?」
「ご家族が来られて、会計済ませました。帰られるところだと思います。」


(えぇ~、私、ずっと待っていたんですけど‥。いったい、どこでそうなるわけ?)


駐車場まで追いかけて、


「私も乗せて下さ~い。」と、娘さん夫婦の車にギリギリセーフで乗り込んで、一緒に施設まで帰ってきました。


施設に着いたのは午後3時。
夜勤から数えて、23時間の長い勤務は、ようやく終了です。
疲れましたねえ~。


dandyは少しも痛くないようで、何が起きたのか、最後まで理解していない様子でしたよ。


老人ホームでは次から次と、日々、待ったなしに、いろいろなことが起こります。dandyの出来事は、ほんの一例です。


次回はdandyのその後のお話を。



(つづく)  



 

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