老人ホームのフロアーで、「dandy.○○(その1)」

数年前に特別養護老人ホームに引っ越して行った、通称「dandy.○○」のお話です。
9年前、私がスタッフになった時、dandyはすでに、施設の人でした。


大柄で、優しい顔立ち。穏やかな口調と柔らかな笑顔。
初めて会った時、dandyは、twoタックのズボンにベルトを締めて、お洒落なカラーシャツを着ていました。
「こんな人がどうして、ここに入っているのだろう?」と、私は不思議に思ったものです。



dandyは、認知はあるものの、少しも手がかかりません。
南北と東に長い、施設の廊下を行ったり来たりして、外を眺めては、うとうとして日長、時を過ごします。
スタッフは、そんなdandyのために、北と南に、そして東にも、突き当たりに椅子を置きました。


朝は早くに起きてきて、ニコニコと、英語でごあいさつ。海外勤務が長かったdandyは、片言英語が話せました。
「何だか、日本語より上手ねえ、」
アルバイトの学生さんが、時々、英語の絵本を使っては、話し相手をしていましたね。



他の利用者に話しかけられると、少しも話がかみ合ってはいなくても、
「そうか、そうなのかぁ…、」と耳を傾けるdandy。


小柄の゛HARUKOさん゛が、寂しくなるとよく、側にきていましたねえ。
゛HARUKOさん゛は、
「そうよ、そうなのよ~、だから、そうなのよ~、」といい、dandyは、
「そうなのか~。それはたいへんだなあ、そうだ、そうだ、大丈夫だよ。」と返します。


中身は何もなくて、掛け声だけの会話です。でも、お互い、心で聞いて、気持ち、伝え合っているんですね。


大きなお爺さんと小さなお婆さんさんが、ソファーで並んで話している様子は、とても微笑ましいものでした。



そんなdandyだったけど、認知が進んだら、困ったさんになってしまって‥、
(言ってもいいのかなあ‥、)


実は、
所かまわず、おしっこするようになってしまったんです。いわゆる、放尿です。


お部屋にはトイレ、ついているんですけどねえ。
朝、「おはよう」と部屋に入ったら、まあ、大変。床中水たまり状態で…。


私、居室担当でしたのでね、出勤の度に後始末していましたよ。
もう、バケツ、何十杯分処理したことか‥。
雑巾で拭きとって、消毒して、バケツを替えて、また拭いて‥、
匂いがなかなか抜けなくて、困りましたね。



「dandy、これじゃあ、私、別料金頂かなくちゃ合いません。」と、ふざけて言ったら、
「いいよ、こずかいあげるよ。いくら?」ときた。


「生涯保証で、100万円。」
「それは高すぎるなあ~。」
「じゃあ…、1年サービスで、10万円ではどう?」
「今、持ち合わせがない。」
「じゃあ、今月分だけね、1万円。」
「それなら何とでもなるさ、今すぐ、下の事務所でもらってくるといい。」だって。


(いつもは、支離滅裂なのに、突然、回線が通じるように、普通に会話ができるときがあるのが認知症の不思議なところです。)



優しいdandyを、少しづつ、困ったジイサンに変えていく、認知症。やっけられるものなら、やっつけたい…。


「これじゃあ、dandyとは呼べないなあ、」
そう言いながらも、私たちはずうっと…、dandyが大好きでした。
(つづく、)





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